【カズ中西のもりまち安全運転研究所】(安全性向上カスタム編) 逆も真なり!Z2ブレーキカスタム
昨年の二輪車事故の傾向として、カーブを曲がり切れず転倒、滑走して死亡事故となる事案が多かったように思います。究極論になりますが、止まれば衝突しないわけで、そのカギを握るのがブレーキシステム。その実験車両としてカズ兄のZ2を用意し、ブレーキシステムのアップグレードは効果的なのか?を検証します。
逆転発想のラジアルマスター
大型バイクではダントツ人気のZ900RS。Z1/Z2を傍らに置きデザインされたエピソードは、ビンテージバイク好きの心もくすぐりますね。Z900RSのルックスは、正にZ1/Z2の現代版といえるものですが、部分的に見てもZ1/Z2らしさに拘っているのが分かります。Z900RSのブレーキシステムでは、現代の大型バイクに標準的なラジアルマスターが採用されています。ならば、Z1/Z2のブレーキマスターとしても違和感なく装着できるのでは?ブレーキ性能も確実に向上するはず!安全運転の観点では、制動力のコントロール性向上に注目です。はたして、逆も真なりとなり得るか否か。

10年前に完成、現在は走行距離13万超となったカズ兄のZ2です。シャシーはトリプルディスクブレーキ標準装備のZ750Four(D1)を選びました。納車当初からブレーキマスターはデイトナの別体タンクマスター(横型5/8)が装着され、ブレーキホースはステンレスメッシュ化されていました。キャリパーはノーマルのままですが、公道においては必要にして十分なブレーキ性能でした。今回はデイトナの秘密工場に向かう道すがら、別体タンクマスターの操作性をチェックしました。

今回のカスタム作業は、デイトナのZ1乗りで話題のアジャスタブルリアショックを完成させた大場さんと一緒に行ないました。お互いZ好きですから、作業に入る前からZ談義で盛り上がる。この調子で作業は終わるのだろうか?という嬉しい疑問も持ちつつ、作業は淡々と進めていきます。
パーツチョイスがスマートなフィッティングにつながる
カスタム作業が上手いくか否かは、事前の準備にかかっていると言っても過言ではないです。段取り8割ってことですね。必要なパーツは、ラジアルマスター19mm・ブレーキホース・バンジョーボルト・バンジョーボルト用ワッシャー・ブレーキフルードです。当然のことながら、脱着するための工具も必要になります。パーツセレクトのポイントは、寸法を間違えない事。ブレーキマスターの場合、横型が5/8インチサイズだと交換するラジアルマスターは19mmサイズになります。17mmのマスターを選んでしまうと、レバー操作は軽くなりますが、サイズ的に横型5/8マスターと同量のブレーキフルードを圧送しきれず、ブレーキが効かなくなります。ブレーキホースでは、マスター側のフィッティングが横型=横着け、ラジアル=下着けとなるため、ホースの必要長さが変わってきます。また、取り回し方によっては、計測した長さでは足りなくなる可能性もあります。長さが足りなくなると、フロントフォークが全伸びした際にホースが突っ張ってしまい、最悪の場合は切れたり外れたりします。また、ブレーキのエア抜きも確実に行わなければならいので、自分自身に正しい整備スキルがない場合は、認証工場またはバイクショップに依頼するのが良いでしょう。

気持ちがはやって、とにかく早く作業したくなりますが、パーツや工具、作業場の確保など、事前の準備が大切です。作業中に何らかのパーツが足りず、買いに行かねばならないという事態は避けたい。特にホースやバンジョー、フルードについては、入念な準備が必須だと言えます。

<今回使用したもの>
・DAYTONA・NISSIN ラジアルブレーキマスターシリンダー 標準レバー 縦型Φ19 <スモークタンク>
品番:95653
https://www.daytona.co.jp/products/detail/95653/
・HIGH-SPEC LINE(ハイスペックライン) タイプA 900mm
品番:60576
https://www.daytona.co.jp/products/detail/60576/
・ブレーキフルード DOT-4 【300ml】
品番:78024
https://www.daytona.co.jp/products/detail/78024/
・バンジョーボルト M10×P1.25(廃番品)
品番:34007 (廃番のため在庫はございません)
銅ワッシャー(M10)、工具

今回のカスタムでお役御免となる、デイトナ別体タンクマスター5/8。実は乗り始めてから2個目のマスターだったりします。ブレーキマスターは同じくデイトナが発売しているリペアパーツでメンテナンスすることもできますが、ある程度の年数を使用したら丸ごと交換してしまう方が手っ取り早く、確実な制動力復活を見込めます。

大場さんのZ1は、デイトナのレトロタイプマスターを装着していました。ビンテージ感を重視する人、出来るだけSTDに近しいルックスに仕上げたいと思うのならば、レトロタイプマスターをチョイスするのも良いでしょう。

キャリパーからブレーキホースを外したところ。内部に残留したブレーキフルードが上から流れ落ちてくることもあるので、テープ等を巻いて漏れ止め手当をしておきます。ブレーキフルードは、特に塗装を侵食してしまうので要注意。

ラジアルマスターを装着する際は、ブレーキスイッチを押すためのレバーがバンジョー等に接触しないよう注意。接触してしまうとブレーキシステムの操作に不具合が発生し、最悪の場合はブレーキが効かなくなります。

ブレーキホースを確実に装着し、エア抜き作業も確実に行ないます。レバー操作に手応えが出たところで、バンジョーやエアブリーダーからブレーキフルードのにじみや漏れ等がないか入念に確認します。また、周辺にブレーキフルードが付着している場合は、ブレーキクリーナー等で綺麗に拭き取っておきます。

意外に見落としがちなのが、キャリパー側のブレーキフルード滲み&漏れ点検。また、周辺に付着している場合は、ブレーキクリーナー等を活用してしっかりと拭き取っておきます。なお、オーバートルクでボルトを締めると、キャリパーが割れてしまったり、ヒビが入ってしまうこともあるので要注意。

作業開始から約3時間でラジアルマスター化できました。とはいえ、これで終わりではなく、10数kmの試走をして、フルードの漏れや滲みがないか、再度確認します。問題なければ装着完了となります。
マスターピストンの大径化がもたらすリニアなブレーキ操作
ズバリ!Z1/Z2にZ900RSチックなラジアルマスターは、見た目の収まり感良し。全く違和感なしだと思いました。ブレーキシステムのアップグレードですから、見た目のカッコよさはもちろん、効きが重要なのは言うまでもありません。先ず絶対効力については、ブレーキキャリパーとディスクローターを変更していないので、体感できる差は無いです。逆に言えば体感できる差があったら、それまでの状態が正常でなかったと推測できます。大きく変わったのは、レバータッチとコントロール性。指の動きに対する制動力の発生具合がリニアになりました。これはブレーキマスターのピストンサイズとレバー比によるものだと思います。簡単に言えば、レバーを1mm動かしたときにマスターのピストンがどれだけ動いたか、です。ラジアルマスターはその構造上、横型マスターより僅かなピストン移動をコントロールしやすいです。別の言い方をすれば、5/8インチから19mmとピストン径がUPしたことで、より繊細なフルード圧送が可能となります。これがレバー操作した時のタッチ、握りこみ/リリースのリニア感につながっていて、ブレーキの効かせ方=コントロール性の向上につながっています。横型マスターの時に比べて、レバーの移動距離は大きくなりますが、ラフな操作でも制動力変化のリニア感は得られると思います。応答性の良さは、ビッグピストンを採用した倒立フロントフォーク(例:BPF)の反応と似ていますね。結果として、いったん握りこんでから僅かに握り増しした時、または僅かにリリースした時に、理想に近しい制動力を確保できます。制動力のコントロール性向上は、危険回避に大きく貢献しますから、今回のカスタムは大成功と言えるでしょう。

カーブとアップダウンが連続するワインディングロードにて、ラジアルマスター化の効果をチェック。下り坂の左カーブでは、リリースコントロールが良くなっており、走行ラインの修正がしやすかったです。また、突発的に現れ向かってくる車がいても、僅かに握りこみコントロールして衝突を回避することが出来ました。ブレーキ操作は1かゼロか、ではなく、1.1とか1.7のレバー操作=制動力の確保をしたい時があり、それを可能とするのがラジアルマスターだと思いました。このリニアフィーリングは、ステンレスメッシュホースとの組み合わせによって、さらに向上します。効きの良いブレーキパッドを装着していれば、シャシーのバランスを崩すことなく、最高のブレーキ性能を実現できるでしょう。ルックスの関係から、キャリパーは変更したくないけれど制動力は向上させたいという人にも、ラジアルマスターへの交換が有効だと思います。
この様子は動画でもご覧いただけます。
ライターProfile
KAZU中西
モーターサイクルジャーナリストを始め、イベントのMCやラジオDJなどマルチに活躍!
伊伝株式会社の広報担当であるとともに伊豆スカ事故ゼロ小隊の中隊長、静岡県二輪車安全運転推進クラブ伊豆地区会長など、積極的に交通安全推進活動を行っている。
※文中に記載の品番/価格は、記事作成時のものです。