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【カズ中西のもりまち安全運転研究所】11 これで不安解消!? 雨の日ツーリング
2025.06.16 乗るできごと

スリップへの不安感から、とかく敬遠されがちな雨の日ツーリング。愛車を濡らすのが嫌、レインウェアが好きじゃない、ドライコンディションでしか楽しめない等々、様々な理由から雨の日は乗らないと決めているライダーも多いでしょう。「雨の日に安心してツーリングを楽しむためにはどうしたらよいのでしょうか?」というお便りもいただきました。雨の日は乗り出さないと決めている人でも、ツーリングの途中で降られることもあります。どのようにして雨の日ツーリングを切り抜ければ良いのか?安心して楽しめるように走るためには?僕の経験則が参考になれば幸いです。

1.なんだかんだ標準圧が良いタイヤのエアチェック

一番の不安感は、濡れた路面でタイヤが滑り出すこと、スリップから転倒することが要因だと推測しました。いわゆるツーリングタイヤ、スポーツ・ツーリングタイヤは、ウェット性能についてもしっかり研究開発されています。僕の知り得る限り、250ccクラス以上のオンロードモデル用では、約80km/hまで問題なく走れるようなグリップ力が確保されています。使用条件としては、亀裂損傷、偏摩耗がなく、残溝量も十分にある状態で、エア圧は車体に記載されている標準値が想定されています。

よく「ウェットコンディションでは空気圧を下げた方が良い」と言われているようですが、僕の40余年に渡るライダー経験からすれば、タイヤメーカーが想定している通り、空気圧を標準値に合わせると意外にもグリップしてくれます。タイヤは、空気圧を低くする=空気を抜くことで、接地面が若干広くなる反面、タイヤを路面に押し付ける力が広く分散して弱くなってしまい、結果として滑りやすくなります。標準エア圧では、タイヤメーカーが設計した通りの接地圧とトレッド形状、グルーブ形状となるため、トレッドのコンパウンドやカーカス等の性能が存分に活かせます。もし、不安感からエアを抜いているなら、全く逆の作業をしていることになりますね。ただし、これはオンロードモデルに限った話で、泥沼コンディションになっている場所をオフロードバイク・オフロードタイヤで走る場合は、意図的にエア圧を下げることもあります。

公道の舗装路を走る前提ならば、タイヤのエア圧は雨でも晴れでも標準値でOK!意図的に空気をかなり抜いてしまうと滑りやすくなります。標準値なら土砂降りの中を走っても、タイヤは温かさを保持しています。つまり、設計通りに機能していると言えますね。

2.走り出したらとにかく『一定』を心がける

運行前点検がバッチリならば、意を決して走り出すだけ。出発から雨模様なら、濡れることについての諦めはついているだろうから、晴れの日よりも慎重に乗ることを心がけます。とはいえ、慎重になりすぎて怯えることは、かえってスリップの誘発につながるので、普段通りに平常心を保つと良いです。

不安感の要因としては、晴れの日に比べて制動距離が長くなる、マンホールや橋の継ぎ目、横断歩道のペイント、減速帯ペイント等で滑りやすくなる、深くリーンさせればスリップして転んでしまう、シールドが濡れて視界が悪くなる等が挙げられます。シールドについては、バイク用ヘルメットシールド専用の撥水剤や曇り止め等で事前に準備しておけば、ある程度までは視界の確保ができるでしょう。また、ヘルメットに装備されている曇り緩和機能(ダクトを開ける等)を活かすと良いです。それ以外は、急が付くことをしない、深くリーンさせない、可能な限り前方の道路状況を早めに把握する等、総じて安全運転の基本的な心得を実践するのみです。

滑りに対する恐怖心の払しょくについては、運転操作を「一定」にすることが重要。ここは滑るだろうと予想できる場所では、スピードやリーン角が大きく変動しないように運転します。苦手意識を持つ人が多い橋の継ぎ目では、そこに差し掛かる直前までのスピード・リーン角・ハンドルの位置(直進位置または左右に切れている位置)を「一定」に保持するよう我慢。慌てず焦らず、特別な操作をせず、自然体で通過することに意識を集中させます。また、視野を広げ遠くを見るように心がければ、僅かにスリップしても体が自然に対応してバランスを取ります。メーターやフロントフェンダー付近等の下方ばかり見ていると、体がどこを基準(特に水平基準)にバランスを取ればよいのか正しい判断が出来ず、結果的に転びやすくなります。しっかり前方を見て、リラックスした気持ちで運転するのが良いです。

路面のペイント、ひび割れ補修のゴム、排水用の縦溝、橋の継ぎ目、これらは、あらかじめ目視で確認できる滑りやすい場所で、通過する際に急ブレーキ・急ハンドル・急加速、深くリーンさせる等をしなければ、僅かなスリップだけで通過できます。その時間はコンマ数秒、まさに一瞬です。また、直前の路面や下方を見すぎると、そこへ吸い込まれるように転びやすくなるので、下方を見たい気持ちを抑えてひたすら前方を見る、走らせたい方向を見るよう心がけて運転すると、不思議なくらい転びそうにならない。何事もなかったかのように通過できます。ここでは特に「一定」を意識すると良いでしょう。

路面がウェットですので、いかに運転が上手くても、また自信があっても、カーブ区間で深くリーンさせ過ぎれば、スリップ転倒してしまいます。とはいえ、滑るかも滑るかもと怯え過ぎれば、体が固まって上手く運転できず転倒につながります。先へ先へと前方の状況確認することはもちろん、ここでも「一定」を心がけます。道路両端に白い破線=ドットラインが引いてある場所は、かつて死亡事故を含む大事故が発生した証でもあるので、路面状況だけでなく、対向車の動きにも注意です。早め早めに状況確認しながら、どこを走れば安全に通過できるか?を考えて走り抜けると良いです。

3.雨の日をポジティブに楽しむ

降り始めは濡れることが嫌でも、すっかりずぶ濡れになってしまうと雨が苦にならない。俗にいうレインマスター=ウェットコンディションの運転が得意な人は、そんな風に語ってくれます。雨の日ツーリングでは、走行時間が長くなるほど、濡れることによって体温調節が難しくなり、晴れの日より疲労感が増してしまうことに要注意です。その対策として、レインウェアを着用すると思いますが、いかに高性能なレインウェアでも、全方位100%防水ではないため、その下に着用するライディングウェアについても考慮すると良いです。

装備・装具類が万全ならば、雨の日ツーリングは意外に楽しめます。爽やかな風や美しい山々の景色、キラキラと輝く水面、思い通りにコーナリングできた時の快感は無いかもしれませんが、スピードを控えめに「一定」の運転操作を心がければ、これまで苦手意識のあった場所を難なくクリアできた時に、目の前の暗雲が開けたような達成感を覚えます。簡単に出来そうなことが出来ないよりも、難関をクリア出来た喜びみたいなものでしょうか。ツーリング途中の立ち寄りスポットでは、真にライダー歓迎なのか否かを、対応から見極めることができます。ライダー歓迎の店では、ウェットコンディションの中でも訪れてくれたことに感謝の意と労いの言葉をかけてくれることでしょう。雨の日ツーリングに慣れてくれば、晴れの日と同じようなペースで走れるようになり、ブレーキやタイヤ、サスペンションの性能をより深く知ることになります。また、晴れの日に比べて道路が空いている場面も多く、特に観光シーズンでは快適な走行ペースを楽しめることでしょう。とはいえ、慣れてきた時こそ滑りや転倒にご用心。調子に乗ってペースを上げてしまえば、いとも簡単に足元をすくわれます。雨でも晴れでも、オートバイで出かけたならば、笑顔でブジカエルの心を忘れずに!

雨の日でなくても苦手意識の高いループ橋。ほぼ一定のスピードとリーン角の維持が、難なくクリアできるキモになります。先へ先へと視線移動していけば、さほどふらつくことなく走り抜けられるでしょう。

雨の日の峠越えでは、スリップによる転倒に不安感が増します。カーブの連続する区間では、リーン角…つまり、寝かせすぎに注意しつつ、スピードやリーン角に大きな変動が無いよう心がけると良いです。

ステージMC等では、晴れ男を自称しているカズ兄ですが、オートバイに乗り始めた16才の頃まで振り返ってみると、晴れの日よりも雨の日に走っていることが多いです。アメリカ1周武者修行では、サンダーストーム(日本の台風レベル)の中を何度も走り、今ではいい思い出になっています。これは20代前半のツーリングシーン。台風が接近している土砂降りの中、甲府から新潟の寺泊まで下道オンリーのツーリングでした。大柄なフェアリングを装備するXJ750Dは、ウェットコンディションでも快適に走れましたが、同行した2人は慣れない雨の日ツーリングとワインディングに苦戦していたようです。それでも途中で励まし合い、同じ時を過ごせた経験は、30年以上経った今でも酒の肴になっています。

最近のスポーツ・ツーリングタイヤは、ウェット性能が本当に良いなと感心します。おかげで、空いているワインディングロードを土砂降りの中でも楽しめるようになりました。カズ兄がヘビーレイン、超ウェットコンディションを物ともせず走れるのは、若かりし頃にエンデューロや藪漕ぎを経験していたからだと思います。ぬかるみにハマらず先へ進むためには、どの走行ラインを選択すれば良いのか?を瞬時に判断しなければならないエンデューロ経験は、雨の日ツーリングにおいて安全性の高い走行ライン選びに少なからずプラス要素となっています。よく、オートバイの運転が上手くなりたいならば、オフロードで練習すると良い!等と言われますが、まさにその通りだと思います。とはいえ、人によってはオフロードバイクを増車して練習することになりますから、ハードルが高い。そこまでストイックにならなくても、先に述べた「一定」を心がけることで、雨の日ツーリングは随分と楽しめることになるはずです。ウェット路面に残る後輪の軌跡をバックミラーでチラ見した時、思わずニヤリとするぐらいになっていれば、レインマスターの仲間入りです。

雨の日ツーリングを動画でチェック!

このブログで説明した内容の実際の動きを、動画でご覧いただけます。ぜひ併せてチェックしてみてください。

【カズ中西のもりまち安全運転研究所】11 これで不安解消!? 雨の日ツーリング

 

 

 

ライターProfile

KAZU中西

モーターサイクルジャーナリストを始め、イベントのMCやラジオDJなどマルチに活躍!伊伝株式会社の広報担当であるとともに伊豆スカ事故ゼロ小隊の中隊長、静岡県二輪車安全運転推進クラブ伊豆地区会長など、積極的に交通安全推進活動を行っている。

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